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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7695号 判決

原告 山崎製パン株式会社

右代表者代表取締役 飯島藤十郎

右訴訟代理人弁護士 益本安造

被告 ザ・ニューインディア・アシュアランスカンパニー・リミティッド

日本における右代表者 平剛

右訴訟代理人弁護士 小林俊明

主文

被告は原告に対し、金一三二万五〇〇〇円とこれに対する昭和四一年八月二一日から、その支払いが済むまで年六分の割合による金員を支払わなければならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、請求原因事実中(一)、(二)の事実については当事者間に争いがない。

二、第一の契約による保険金の請求について

≪証拠省略≫によると昭和三九年二月二五日、原告の従業員である訴外石川が第一の契約の被保険自動車である小型トラックを運転中、訴外中里キミ江に激突して、負傷させたこと、右事故に関して昭和四〇年一二月二日、原告と訴外中里との間で、原告が右中里に対し、損害賠償として一八六万六、八七二円を支払う旨の合意が成立しその支払をしたことが認められ、右に反する証拠は見当らない。

本件保険契約において、原告に事故報告の義務が存することについては当事者間に争がない。そこで右報告義務の履行について検討する。

≪証拠省略≫によると、第一の事故のあった日の翌日訴外阿部謹吾が、その数日後訴外矢吹春雄がいずれも原告社員として訴外西川昭太郎に口頭で事故報告をなしたことを認めることができる。右西川が報告を受けた当時、被告会社の代理店を営んでいたことは当事者間に争がないところ、≪証拠省略≫によると被告は、昭和三九年五、六月頃、訴外西川との間で問題を生じ、同訴外人に対し代理店業務を停止させるまでは、保険契約の締結のみならず、保険金の支払手続についても右西川に処理させていたこと、原告も従来事故報告を含めて保険金請求手続は右西川を通じて行っていたことが認められ、右に反する証拠はない。

してみると、第一の事故についての保険契約上の原告の事故報告は、訴外西川に対して事故報告をしたことによって被告に対し正当になされたものということができる。

次に、本件保険契約によれば、原告が事故の被害者に対し損害賠償の支払いをなすに当っては、あらかじめ支払い内容について書面により被告の同意を得なければならない旨の約定のあること、第一の事故に関し、原告が被告より右の同意を得ていないことについては当事者間に争がないところである。

そこで、右約定について考えるに、右保険約款において被害者に対する損害金の支払いにつき、あらかじめ被告の書面による同意を必要としているのは、保険契約者において被害者に対し実損額を超えて不当に多額の支払いをしてその填補を要求し、或は被害者に支払った額以上の保険金の支払いを求めるなどのことから保険金の支払いにつき無用の紛争の生ずるのを未然に防止する趣旨に出たものと解することができる。

そうであるとすれば、被告の書面による同意を要する旨の右約定は、同意書の存在も保険金支払の絶対的な要件とする趣旨と解すべきものではなく、保険契約者たる原告より同意書の交付を求められたのに対し、被告が正当な理由がなくこれを拒むなどして同意書の得られなかった場合にまでその存在を保険金支払の要件とすべきものではないと考えられる。

これを証拠によってみるに、≪証拠省略≫によると、原告は、訴外中里と請求原因(三)(1)記載の和解をするに先立ち、原告の職員である訴外有泉厚が被告の代表者平剛に会って、その和解の内容を示して同意を求めたが、被告の代表者は、第一の事故については原告から事故後速やかに事故報告がなされていないから被告には保険金の支払い義務がないとの理由で、その和解内容の如何に拘らず保険金の請求には一切応じられないとの態度で終始し、和解の内容に対する同意を与えなかったことが認められこれに反する証拠は見当らない。そして、被告において事故報告がないとの理由で保険金の支払いを拒むことが正当でないことは前判示したところから明らかである。

してみると、既に判示したところにより被告は、同意書のないことをもって保険金の支払を拒むことはできないものというべきである。

原告が訴外中里に支払った前記損害賠償金一八六万六八七二円につき特にこれが実損額を超えて不当な金額であると認められる何らの事情も資料もないから、右金額は第一の事故により原告が負うに至った法律上の損害賠償額ということができる。従って右金額のうち保険金の支払いとして責任制限額の範囲内である一〇〇万円の支払を求める原告の請求は理由がある。

三、第二の契約による保険金の請求について

請求原因(三)(2)の事実については当事者間に争いがない。

結局、第二の契約による請求に関する請求原因事実については全て当事者間に争いがないところ、右請求原因によると原告の請求は理由がある。

四、結論

以上のとおりであるから、原告の請求はすべて理由があるものとしてこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言については、同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川上正俊)

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